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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

昨夜ほんとうの一人ぼっちで浜屋の二階に眠った幸子は、旅の空とは云えいかにも心細い気がして、夜じゅう寝られないでしまったので、これが五六日も続く佗びしさを考えていたのであったが、その晩は又ゆくりなくも十畳の座敷に妙子と二人、何年ぶりかで姉妹が枕を並べて横になった。思えば、船場時代から娘盛りの年頃になるまで、彼女達は何年となく一つ部屋に起き臥ししたもので、その習慣は幸子が貞之助と結婚するつい前の晩まで続いたのであった。尤も、ずうっと昔のことは知らず、彼女が女学校の時分から、上の姉だけは別の部屋に寝て、幸子以下の三人が二階の六畳に寝ることになっていたので、妙子と二人きりのことはめったになく、大概二人の間に雪子が挟まり、どうかすると、部屋が狭いので二つの寝床に三人が寝たりしたこともあった。そして、雪子は寝像のよい娘で、暑い晩でもきちんと掻巻を胸のあたりまで掛け、少しも寝姿を崩さずに眠るのが常であったが、幸子は今もこうしていると、あの頃の光景がなつかしく想い出されて来、自分と妙子の間に挟まって行儀正しく眠っている雪子の、痩せた、ほそぼそとした恰好迄が髣髴と見えて来るのであった。