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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

三十三

、「青山南町の誰々さあん」、―――と呼び立てるのを聞いていた時であった。「西宮の誰々さあん」、「下関の誰々さあん」などと云うのが飛び出して来て、しまいに「フィリッピンの誰々さあん」と呼ぶので、さすがに歌舞伎座は日本全国どころやない、南洋のお客さんまで集ってるねんなと、感心していると、妙子が俄に、

「ちょっと!」

と云って、二人を制しながら聴き耳を立てた。

「蘆屋のマキオカさあん、―――」

成る程、確かに拡声機はそう呼んでいるのであったが、

「兵庫県蘆屋のマキオカさあん、―――」

と、三度目にはそう云い直した。

「何やろう、こいさん出て見てくれへん」

幸子に云われて立って行った妙子は、暫くすると戻って来て、自分の席のハンドバッグとレースの肩掛とを取って、

「中姉ちゃん、ちょっと」

と、幸子を廊下へ連れ出した。

「何やねん」

「今、浜屋の女中が表へ来てんわ」

妙子の云うのは、こうであった。―――

蒔岡さんに御面会の方が来ておられますと云うことなので、正面の入口に出て見ると、階段のところに浜屋の女中が立っていて、先程蘆屋のお宅から電話が懸って参りましたよってに(と、その女中も大阪訛のある言葉で云った)そのことを申し上げようと、何遍も歌舞伎座へ電話致しましたけど、話中でどうしても懸らんものでございますから、それよりあんたが一と走り行って来