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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
彼女は帰って来て、案外多くの参会者があったこと、おやと思うような人の顔も見え、板倉がいつの間にそんな方面にまで交際の手をひろげていたのか、彼女でさえも意外に感じたこと、その日も啓坊がおっちょこちょいを発揮して、店員達と一緒に棺側に列んだことなどを話した。遺骨は親兄弟たちが郷里の寺へ持って行って埋葬すると云うことであったが、彼等が田中の板倉写真館を閉じて引き揚げて行った時にも、蒔岡方へ何の挨拶にも来なかったのは、多分これ以上の交際を遠慮したのであろう。妙子は三十五日までは、七日々々にひとりでこっそり故人の郷里へ行き、しめやかにお墓詣りをして親兄弟の家へも寄らずに帰って来るようにしていたが、幸子もうすうすそのことは知っていないでもなかった。
雪子と悦子とは、「水戸ちゃん」がいなくなってから離れの方に二人で寝るのは淋しいので、夜はお春に泊りに来て貰っていたが、それも僅か二た晩で、ちょうど板倉の告別式の前日に床上げをし、母屋の方へ寝室を移した。そして、離れはホルマリンで消毒されて、貞之助の書斎に戻った。
そう云えば、こんな工合にさまざまな事件が起りつつあった最中、と云うのは五月下旬のことであるが、或る日シベリヤ経由の一通の書面が蒔岡家に届いたことを、ついでに此処に書き添えて置こう。