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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
をまくり上げて渡った、と、そう奥畑は云って、
「―――もっと早うお伺いせんならんのですけど、僕、号外が出たことをちょっとも知らんと、ついさっき聞きましてん。それにしても、今日は朝から洋裁学院へ行かはる日イやけど、まだ出かけはらんうちやったろうか、そうであったらええなあ思うてたんですが、………」
ありていに云うと、幸子が奥畑を請じ入れたのには、今の場合の自分の心痛を一番よく察してくれるであろうこの相手を掴まえて、自分がどんなに夫や妹の身の安全を祈っているかと云うことを聞いて貰いでもしたら、自分のこの、今か今かと待ち焦れつつある、居ても立ってもいられない気持が、少しは紛れるであろうと云う底意も働いていたのであったが、卓を隔てて向い合って見ると、矢張打ち解け過ぎない方がよくはないかと云う反省が湧いた。それと云うのが、奥畑としても妙子の消息を知りたがっている心持に偽りはないであろうけれども、その心配そうな表情や口の利き方に何処となくわざとらしさがあって、こう云う機会に此処の家庭に入り込んでやろう、と云ったような気があるのではないかと、早くも幸子に警戒心を抱かせたからであった。