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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

兼やはどうしたか知ら、お母さん、と、弘少年がふとそんなことを云った。さあ、さっき女中部屋にいたようだったが、どうしたか知ら、―――女史がそう云うと、でも声もなんにもしないじゃないか、―――と、少年が又云ったが、女史はそれきり答えなかった。三人は無言で、それぞれの間を隔てている水の面を視詰めていると、水面が又少し高まって、天井との間の空間が三四尺ぐらいに縮まった。妙子は横倒しにしていたテーブルを普通の位置に立て直して、その上に乗り、(立て直す時テーブルが泥に埋まって重くなっていて、足に絡み着いた)窓の頂辺のカーテンの金具をしっかり握っていたが、纔かに首だけが水面から出ている程度であった。中央のテーブルの上に立っている女史も大体同様であったが、これは都合よく頭の上に、太い三本の鎖で吊るされている、間接照明の、杯を仰向けにしたようなジュラルミン製のシャンデリヤが垂れていたので、倒れそうになるとそれに掴まっていた。お母さん、僕死ぬの? と、弘少年が云った。ねえお母さん、―――と、女史が黙っているので、少年は重ねて云った。―――僕死ぬんだね、死ぬね?―――死ぬなんて、そんなこと、………女史が何とか云ったようであったが、その先はもぐもぐと口を動かしただけで、恐らく自分でもどんなことを云ってよいのか分らなかったのであろ