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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

それで、幸子は、姉に会って委しい話を聞く迄は、そう云っても何とかなるように思い、全然望みを捨て切ってはいなかったのであるが、話を聞いてみると成る程それでは仕方がないと思わざるを得なかった。幸子と違って大勢の子持ちである姉は、上の子供達が中学校や小学校から帰って来る迄の、午後の一二時間を利用して、―――ちょうど雪子もその日の二時からお茶の稽古に出かけることを知って来たので、一時間半ほど応接間で話しているうちに悦子の帰って来た姿を見ると、ではどう云う風にして断るか、そこの所はあんた等に任せるから貞之助さんとよく相談をしてくれて、と云って暇を告げたが、姉の語るところに依ると、瀬越のお母さんと云う人は、十数年前に連れ合いに先立たれてから、ずっと昔の家屋敷に引き籠ったきり病気と云うことで世間に顔出しをしない、忰の瀬越もめったに帰省することはなく、身の周りの世話は、そのお母さんの実の妹で、矢張未亡人になっている人が任に当っている。病気は表向きは中風と云っているけれども、出入りの商人などに聞いてみると、どうもそうでないらしい節があり、事実は一種の精神病で、忰の顔を見ても忰ということが分らないと云った風な性質のものらしい。