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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

と、かけ終えるとタオルで目鼻を拭いながら云った。

「ふん、………誰に聞いたん?」

「今悦子が知らせに来てんわ」

「へえ、何とまあ、………」

さっき貞之助が井谷と話しているところへ、すうっと悦子が這入って来て、椅子に腰かけて聞き耳を立て始めたので、お前は彼方へ行っていなさい、子供がこんな話を聞くものではないと云って、貞之助は彼女を追い遣ったのであったが、きっと食堂へ退いて盗み聞きしていたのであろう。―――

「やっぱり女の児はこう云う話に好奇心持つねんな」

「子供が五人あるのんでっしゃろ」

「何と、それも云うたんか」

「はあはあ、長男が大阪の学校へ行ってはって、長女がもう直き嫁に行かはる年頃で、………」

「ええ?」

「大和の下市の人で、何やら銀行の支店長してはって、………」

「こりゃ驚いた、油断も隙もならへんわい」

「ほんに、これからよっぽど気イ付けなんだら、えらいことになりまっせ、今日は雪子ちゃんが留守やよってによかったけど」

毎年、年末から正月の三箇日へかけては雪子も妙子も本家へ帰ることにしてあったので、雪子は妙子より一と足先に、昨日帰って行ったのであったが、彼女がいたら全くどんなことになったか知れないと思って、夫婦は胸を撫でおろした。