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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

と、済んでしまってからキリレンコが云った。

貞之助達は、それからもう一度次の間に席を改めて、ひとしきり雑談やトランプに時を過して、又もう一度食堂の方へ呼ばれた。が、日本人側に関する限り、最早や如何なる御馳走も受け付けないで、専らボリスの胃袋を肥やす結果に終ったが、それでも酒だけは、貞之助が最後まで奮闘してキリレンコやウロンスキーと太刀打ちをした。

「気イ付けなさい、あんた足もとがふらふらやわ。………」

と、漸く十一時過ぎになって、暗い田圃の中の路を帰途に就きながら幸子は云った。

「ああ、この冷たい風がええ気持や」

「ほんまのとこ、さっきはあたし、どうなるか思うたわ。カタリナだけしかいえへんし、いつ迄たっても食べるもんも飲むもんも出てけえへんし、お腹はますます減って来るし、………」

「そこへさしていろいろなもん出されたんで、つい卑しん坊してしもた。―――露西亜人云うたら、何であない大食いやねんやろ。飲む方やったら負けへんけど、食う方やったらとても敵わんわ」

「そいでも、みんなで呼ばれに行ったげたのんで、お婆ちゃん喜んではったらしいわ。露西亜の人は、あんな小さな家にいたかてお客するのんが好きやねんな」