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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

二十一

二十一

幸子の黄疸は大して重いと云うのでもなしに長いこと恢復しないでいて、どうやら直りかけたのは入梅に這入ってからであったが、或る日彼女は本家の姉から見舞の電話を貰ったついでに、意外な事を耳にした。と云うのは、今度義兄が、東京の丸の内支店長に栄転するについて、近々本家は上本町を引き払い、一家を挙げて東京へ移住しなければならなくなった、と云うのである。

「ふうん、それ、いつやのん」

「兄さんは来月から、云うことやねん。そんで、取りあえず兄さんだけ先に行って、住む家捜しといて貰わなならんよってに、あたし等の行くのんは後になるけど、子供の学校の関係もあるさかい、どうでも八月一杯には立って行かんと、………」

姉はそう云ううちにもおろおろ声になりつつある様子が、電話でもよく分るのであった。

「そんな話、前からあったん?」

「それがなあ、ほんまに突然やねんわ。兄さんかてなんにも聞いてえへなんだ云うてはるぐらいやねん」

「来月とはえらい急な話やないか。―――大阪の家はどないするのん」

「どないしてええか、まだちょっとも考えてえへん。―――何せ、東京に行くようなこと、夢にも思うてえへなんだよってに」