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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
そう云う姉が現在住んでいる上本町の家と云うのは、これも純大阪式の、高い塀の門を潜ると櫺子格子の表つきの一構えがあって、玄関の土間から裏口まで通り庭が突き抜けてい、わずかに中前栽の鈍い明りがさしている昼も薄暗い室内に、つやつやと拭き込んだ栂の柱が底光りをしていようと云う、古風な作りであった。幸子たちはこの家がいつから其処に建てられているのかを知らない。恐らく一二代前の先祖が建てて、別宅や隠居所に使ったり、分家や別家の家族に貸したりしていたらしいのであるが、父の晩年に、それまでは船場の店の奥に住んでいた彼女達が、住宅と店舗とを別にする時代の流行を追って、その家に引き移るようになった。だから彼女達は、自分達が住んだ期間はそう長くはないのだけれども、幼年時代、親戚の者が住んでいた頃にも幾度か出入りをしたことがあるし、父が最期の息を引き取ったのも其処であったしして、その家には特別な追憶を持っている訳であった。で、姉の大阪に対する郷土愛の中には、その家への執着が余程多くを占めているのであろうと幸子は察した。現に姉の昔気質を可笑しがる幸子でさえも、電話で突然その話を聞いた時に、何かしらはっと胸を衝かれる思いがしたのは、もうあの家へも行けなくなるのかと云うことに考え及んだからであった。