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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

幸子はそう聞かれる度に、幾らかずつ良い方で、出るものも微量になりつつあると答えてはいたものの、実は昨日の午後あたりから何度も電話口へ立ったりして体を動かしたのが障ったらしく、今日は却って量が殖えているのであった。そして、長いこと風呂へ這入らない顔や襟頸を簡単に洗っただけで、鏡台の前に坐って見ると、いかにも貧血しているのがよく分る色つやをしてい、我ながら窶れが目立っていることを感じたが、妹さんの見合いに附き添う時には精々地味に作るようにと、いつぞや井谷に注意されたこともあるし、このくらい衰えていたらちょうどよいのではあるまいかと思ったことであった。

ホテルの玄関で待ち構えていた陣場夫人は、雪子を中に挟みながら夫婦が這入って来たのを見ると、すぐ寄って行って、

「幸子さん、旦那さんに紹介して」

と云いながら、

「あなた」

と、自分のうしろに、二三歩離れて謹直な恰好をして突っ立っている夫の仙太郎を麾いた。

「初めまして。わたくしが陣場です。いつも家内が御厄介になっとりまして。………」

「いえ、此方こそ。………この度は又奥さんに並々ならぬ御配慮に与りまして有難う存じます。