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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

ば、と云う腹があるので、なおさら押っ被せるように云うのであったが、幸子にも、うすうすその気持が分らなくはないので、ではいつ、と云うと、急なお話のようですけれども明日の日曜にして戴けると瀬越さんも私も大変都合がよいのですが、と云う。明日は先約がありまして、と云うと、では明後日と、直ぐ畳みかけて来るので、それなら大概明後日と云うことにして置いて、しかとしたところは明日の午頃電話で御返事申しますからと、そう云って帰って貰った昨日の今日のことなのである。

「なあ、こいさん、―――」

と、幸子は、引っかけてみた衣裳が気に入らないで、長襦袢の上をぱっと脱ぎすてて別な畳紙を解きかけていたが、ひとしきり止んでいたピアノの音が再び階下から聞えて来たのに心付くと、又思い出したように云った。

「実はそのことで、難儀してるねん」

「そのことて、何のこと」

「今、出かける前に、井谷さんに何とか電話で云うとかんならん」

「何で」

「あの人、昨日又やって来やはって、今日にも見合いさしてほしい云やはるねんが」

「あの人、いつもそんなやで」

「正式の見合いと違うて、一緒に御飯たべるだけやさかい、そんなに堅苦しゅう考えんと、是非承知してほしい云やはって、明日は都合が悪い云うたら、そんなら明後日は如何です云やはるよってに、どうにもいやや云うこと云われへんねん