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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
酒の上の悪いのは論外として、矢張いくらかは嗜んでくれる夫の方がよい。―――雪子はそんな注文を出しはしなかったけれども、幸子は自分の気持から推して、雪子も大方お腹の中ではそうであろうと察していた。それに、雪子のように兎角胸にあることを発散させないで、じーッと内攻させているたちの人は、時々酒の相手でもさせて貰わなければいよいよ気分が滅入り込むであろうし、夫の方でもこう云う人を妻に持ったのでは、そんなことでもなかったら鬱陶しくて遣り切れないであろうとも思えて、旁、下戸の夫を持った場合の雪子と云うものを想像すると、とても淋しい、気の毒な感じがしていたのであった。で、今夜も幸子は、雪子を余り黙り込ませないようにと思って、
「雪子ちゃん、それ少し飲んだら、………」
と囁きながら、彼女の前に注いである白葡萄酒の杯を眼で指し示して、自分もそれを少しずつ飲んで見せたり、
「ちょっと、お隣へ少し葡萄酒を注いで上げて………」
と、ボーイに耳打ちをしたりしていた。雪子自身も、内々瀬越の飲みっ振りを見て意を強くもし、自分ももっと朗かになりたいと云う気もあって、目立たぬように折々口をつけていたが、雨に濡れた足袋の端がいまだにしっとりと湿っているのが気持が悪く、酔が頭の方へばかり上って、うまい工合に陶然となって来ないのであった。