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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

『もういい、もういい』

そして、そのあとで、近衆へつぶやかれたそうである。

『麗景殿の柔順もいいが、あれでは哀れを通りこして、まったく、たよりないね……自分のした戯れまで、うとましくなってしまったよ』

ご不幸な予感だった。のちにこの綏子は、東宮のお目を忍んで、源ノ宰相頼定と密通したうえ、妊娠の噂まで立ったので、ついに後宮を退いて、元の東三条の家に帰されてしまった。男の宰相頼定も、これがたたって、三条天皇の治世中は、殿上を遠ざけられ、半生、地下の上達部というばつの悪い地位にくすぶっていたようである。

爪が紫いろになる迄、氷を手に載せている女は、愛人ならぬほかの男から強いられても、やはり唯々として氷の怺えをしてしまうものかもしれない。現代の女性間には、こんなひとは探してもいない気はする。しかし、自分でも分らない自分の胸には、案外、どんな自分が潜んでいるかも知れないと考えてみてもいいだろう。

たとえば、現代の綏子君なら『いやよ。ばかにして』と、言下に氷を男に打つけて怒るかもしれないし、さもなくば『あら、待てないわ』とばかりボリボリ噛み割って喰べてしまう事かもしれない。