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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

正三や」

「ハッハハハハ」

とこのとき兄さんの祐助さんが笑いだした。

「なんだ? 失礼な」

「…………」

「でも正三や正三やって、まるで正三を売りにきたようじゃありませんか」

とお母さんもすこしおかしかった。

「正三や、今日おやしきへあがったら……」

とお父さんはようやく不断の調子にもどって、お学友の次第をくわしく話して聞かせた。

「お父さん、それでは正三がかわいそうじゃありませんか?」

と祐助さんはかならずしも喜んでいなかった。

「なぜ?」

「こんな小さなものがおやしきへあがって他人の間でもまれるんですもの。奉公人も同じことです。ぼくがお父さんならことわってしまう」

「それはおまえ、料簡違いだよ。お殿様の仰せつけじゃないか?」

と内藤さんは昔なら君公のご馬前で討死をする覚悟がある。

「お殿様は昔のことです。今日では知人にすぎません。まったく対等ですよ。特別の契約を結ばないかぎり、権利義務の関係はありません」

と裕助君は法科大学生だ。

「権利義務の関係がないからといっても、おじいさんの代まではいわゆる三代相恩の主君だったじゃないか? 我々が今日あるのもみな伯爵家のおかげだよ」