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くしんのがくゆう
苦心の学友
佐々木 邦
「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页
なんとなくものものしい。そこへ安斉先生が駆けつけた。奥様へ一礼の後、
「やあ、藤岡さん」と進みよった。
「これはこれは」
「どうも安心ができませんから立ち会いにあがりましたよ」
「先生には漢籍を習った時代から信用がございませんでしたからな」
と藤岡さんが笑った。旧藩士で中年以上の人はたいてい安斉先生のお弟子さんだ。
「いや、そういうわけではありません。若様に一言申しあげるのをわすれましたので、大きらいな自動車に乗って飛んでまいりました」
「ははあ、それはそれは」
「若様、イヨイヨご手術の折りは臍下丹田にお力をお入れください」
「はあ」
「無念無想にしていられればすこしもお痛いことはございません」
「はあ」
「内藤君もその心得で」
と安斉先生はこれだけのことを注意しにきたのだった。
正三君がまず手術室へ進んだ。助手と二名の看護婦がかいがいしく従った。藤岡さんは正三君とさしむかいに席をしめて腕時計を見ながら、
「今日はご苦労ですな」
と笑った。
「どういたしまして」
「ご忠義はそうありたいものです」
「いいえ、いっこう」
「私、あなたのお父さんとはご懇意に願っています」
「ははあ、そうでございますか」