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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「はい」

と正三君は頭を下げていた。それからお母さんや姉さんたちにお暇をして門を出たとき、団子が喉につかえたような心持ちになった。しかし運転手に笑われるといけないから、肩をいからして自動車へ乗りこんだ。

伯爵家にはお子様方の教育指導にあたる先生が数名勤めている。みんな旧藩関係だからご家来だ。ご家来でなければ先生になれない。その中安斉さんという老人が指導主事として采配をふるっている。この先生はご家中随一の漢学者で、評判のやかまし屋だ。家令の富田さんさえ時折りしかられる。あとはみんな家庭教師で、三人の若様と一人のお姫様にそれぞれ一人ずつついている。上のお姫様お二人がおかたづきにならなかったころは六人だったから、六人の家庭教師がいた勘定になる。

安斉先生は旧藩時代の面影を顔のあばたに伝えている。まばらなひげが白い。その昔剣道できたえたと見えて、目がすこし薮の傾向をおびている。にらみがきく。ナカナカこわい。正三君はこの安斉先生に主事室へ呼びつけられてお学友の心得を申し渡された。それは生まれてはじめてよそに泊まって心細い一夜をすごした翌朝だった。漢文の口頭試験のようなものだったが、先生はメントル・テストだとおっしゃった。