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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「いや、いっこう」

「ボールでございますか?」

「林檎ですよ」

「なるほど、お台所のお写生でございますな」

「静物です」

「ははあ。林檎とビールびんでございますね」

と安斉先生は今さらテーブルの上においてあった実物に気がついた。照正様のは実物と比較しないとわかりにくい。先生はボールにバットだと思ったのである。もっともひとりで立っているバットなんかあり得ない。先生も絵心がなさすぎる。

「このビンの色がナカナカ出ません」

「それで結構でございましょう。一枚お下げわたし願いたいものでございますな」

「これをさしあげましょうか?」

「いや、いただくとなれば、ご注文がございますぞ」

「その額になっているお徳利はいかがですか? 色がよく出ているとおっしゃって、先生がほめてくださいました」

「もっと勇壮なものがほしいです」

「ははあ」

「人物画はお描きになりませんか?」

「やはり習っています」

「南朝の忠臣楠正成はいかがでございましょう?」

「武者絵は困りますな。油や水彩の方ではあまりやらないようです」

「なるほど。それでは予譲はいかがでございましょう?」

「はあ?」

「士は己れを知るもののために死す。