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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「ええ」

「内藤さんはなんにも泣くことはありませんよ。さあ、もうご機嫌をお直しなさい」

と奥様がいたわってくだすった。

「はあ」

「私から申し聞かせますから、照彦を連れて来てください」

「はあ」

と正三君は涙をふいて長廊下をたどった。

照彦様は照常様のお部屋の前にションボリと立っていた。正三君の姿を認めると、まず目をいからせてにらみつけた。それから拳骨をこしらえて息を吐きかけて見せて、

「いまにこれだぞ」

と歯をむいた。お兄様に加勢をたのんだという意味らしかった。

「照彦様、お母様がお呼びでございます」

と正三君は近づいた。しかし照彦様は赤んべいをして、学監室にはいってしまった。

照彦様はお母様が一番こわいのである。悪いことをした後、お母様から呼ばれて応じるはずはない。正三君の無礼を学監の安斉先生に訴えるとすぐに姿をかくしてしまった。お母様は女中たちに命じてあっちこっちをさがさせた。その間に正三君は安斉先生から学監室に呼びつけられた。

「内藤君、心配はいらんよ。しかしいったいどうしたのですか?」

と先生はごくおだやかな態度できいた。

「お姫様のお部屋へご機嫌伺いにあがりまして、お話をうけたまわっておりますと、照彦様がぜひ相撲をとるとおっしゃって……」