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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

「なるべく遠くへいって呉れ、少なくとも明日まではみつからないようにな、……ではお別れだ、頼むぞ」

和助は舟に向ってこう云い、踵ほどの水を渡って岸へあがった。

濡れた足を拭き、足袋をはいた。そのときまた胸がむかつき、ぐらぐらと眩暈がした。暫くじっとしているとおさまったので、雪駄をはいて立ちあがった。……湿地や水溜りの間を、拾い拾い街道のほうへ歩きだした。東海道の往還は見えていた。松並木の間をちらほらと馬や人が往来している、車の音も聞えてくる。

「おけいが待っているだろう、今夜は風呂をたてさせて、鈴半から肴を取って……」

突然、和助は眼がくらんだ、地面が斜めになり、耳の奥でがあっと凄じい音が起った。彼はなにかに掴まろうとして、両手をおよがせながら、若い蘆の中へ前のめりに倒れた。

和助は眠りからさめた。

「まあそっとしとくよりしようがない、まちがいなし卒中だよ」

すぐ側でそう云う声がした。

――夢をみているんだな。

和助は可笑しくなった。みんなが自分に中気のけがあると信じている、ばかなやつらだ、しかし誰だろう。

「とんでもねえものを拾っちゃったな」こんどは違う声が聞えた。