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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
彼の母は去年の夏に死に、弟の一人は本所の質屋へ奉公にやった。
これはみんな吾平夫婦のすすめたことであった。五六日うちに来ると云った主人が、それっきり姿をみせない、使いもないし信も来なかった。
――いったいどうしたんだろう。
おけいは云うまでもないが、吾平たちも主人についてはなにも知らなかった。江戸と大阪にあるという店の所在も、商売も、……わかっているのは土地を買うとき、証文に書いた名前だけであるが、それも「喜右衛門」という名だけで、ところ書は此処になっていた。
――まあそのうちにはおいでなさるだろう。
こう云って待ったが、半年しても音も沙汰もない。それで吾平は、母親を引取るようにとおけいにすすめた。
――病人を放りっぱなしにはして置けないからな、それに半年もなんの知らせもないんだから、旦那もまさか怒りはなさるまい。
もし怒ったら自分たちが詫びを入れる。こう云ってすすめるので、不安ではあったが、おけいもそうすることにした。そのとき母を送って来たのは宇之吉であった、半年ぶりにお互いの顔を見て、却って話もできなかったが、吾平の妻は二人のようすからなにか感づいたらしい、宇之吉が帰るときに、畑から野菜を抜いて持たせ、暇があったら訪ねて来るようにと云った。