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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

背骨の曲りかけた万兵衛は、まるで重い荷物でも背負っているように、前跼みになって、ひどく大儀そうな足どりで歩き、なんどもはあと深い太息をついた。

「では、……なんだ、……慥かに預かったから」

別れるときに初めて万兵衛はこう云った。彼はこっちを見ることができないようだった。おけいは黙って微笑して、だがそのまま長屋の路地へはいっていった。……家へ帰ってみると、医者の良庵が来ていた。母親のおたみがまた発作を起したのだろう、隣のおむらが世話をして呉れたとみえるが、母親はいつもの薬がもう効き始めたらしく、うとうと眠りかけているようすだった。

「やっとお金の都合がつきました」

医者を送りだしながら、おけいは低い声でこう云った。

「溜っているのもきれいにします、これからも決して御迷惑はかけませんから、どうぞお願いします」

医者は向うを見たまま頷いた。なにか云おうとするふうだったが、しかし黙って薬箱を持って、そして出ていった。

「お茶がはいってるよ、おけいちゃん」

おむらが病人を憚るように、囁き声でこう呼びかけた。おけいは母のようすを見た、唇を少しあけて、軽い安らかな寝息をたてている。