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きょうしゅうのしじん よさぶそん
郷愁の詩人 与謝蕪村
萩原 朔太郎
蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页
魚臭き村に出けり夏木立
飛蟻とぶや富士の裾野の小家より
魚臭き村に出けり夏木立
旅中の実咏である。青葉の茂った夏木立の街道を通って来ると、魚くさい臭いのする、小さな村に出たというのである。家々の軒先に、魚の干物でも乾してあるのだろう。小さな、平凡な、退屈な村であって、しかも何となく懐かしく、記憶の藤棚の日蔭の下で、永く夢みるような村である。
飛蟻とぶや富士の裾野の小家より
広茫たる平原の向うに、地平をぬいて富士が見える。その山麓の小家の周囲を、夏の羽蟻が飛んでるのである。高原地方のアトモスフィアを、これほど鮮明に、印象強く、しかもパノラマ的展望で書いた俳句は外にない。この表現効果の主要点は、羽蟻という小動物。高原地方や山麓の焼土に多く生棲していて、特に夏の日中に飛翔する小虫を捉えた着眼点にある。即ち読者は、羽蟻という言葉によって、そうした高原地方の、夏の日中の印象を与えられてしまうのである。次にその飛翔している空を通して、遠望に富士を描き出しているので、山麓の小屋と関聯して、平原一帯の風物が浮びあがって来るのである。蕪村はこの構成を絵から学んだ。しかし羽蟻は絵に描けない。絵の方では、この主題を空気の色彩やトーンで現すのだろう。