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かみなりもんいほく

雷門以北

久保田 万太郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页

青空文庫

学校中で最も怖い先生だった。その名を聞いてさえ、われわれは、身うちのつねにすくむのを感じた。――いかに「小使部屋の女王」といえど、とてもその、どこにも歯の立つ理由はなかったのである。

が、すぐにわたしは放免された。そのまま何のこともなく教場へ入ることを許された。――素直にその「抗議」が容れられたのである。

勿論、わたしは、「つるよし」のおばアさんのそのいきり立ったことも、先生にその掛合をつけてくれたことも、そのためわずかに事なきをえたことも、すべてそのときは知らなかった。あとで聞いて不思議な気がした。――同時にいまさらのように、そのとき不注意にわきみをするとか隣のものに話しかけるとしたかも知れなかった自分をふり返ってわたしは赧ぜんとした。なぜなら『えらいんだね、「つるよし」のおばアさんは。――ああいう先生でもかなわないんだね、「つるよし」のおばさんには』といった風の評判の一トしきり高くなったものがあったから。――当座、わたしは、その先生の眼から逃れることにばかり腐心した。

が、そのまたずっと後になって、その先生にとって「つるよし」のおばアさんは遠い縁つづきになっていることをわたしは祖母に聞いた。