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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
「古い浅草」と「新しい浅草」(三)
立つような色の銀杏の梢と、工事をいそいでいる山谷堀小学校の建築塔と……強いていってそれだけである。
わたしたちは天狗坂を下りて今戸橋をわたるとしよう。馬鹿広い幅の、青銅いろの欄干をもったその橋のうえをそういってもとき/″\しか人は通らない。白い服を着た巡査がただ退屈そうに立っている。どうみても東海道は戸塚あたりの安気な医者の住居位にしかみえない沢村宗十郎君の文化住宅(窓にすだれをかけたのがよけいそう思わせるのである)を横にみてそのまま八幡さまのほうへ入っても、見覚えの古い土蔵、忍び返しをもった黒い塀、鰻屋のかどの柳――そうしたものの匂わしい影はどこにもささない。――そこには、バラックの、そばやのまえにも氷屋のまえにも、産婆のうちのまえにも、葵だの、コスモスだの、孔雀草だのがいまだにまだ震災直後のわびしさをいたずらに美しく咲きみだれている……
「古い浅草」と「新しい浅草」(三)
もし、それ、「八幡さま」の鳥居のまえに立つとしたら――「長昌寺」の墓地を吉野町へ抜けるとしたら……
わたしたちは、そこに木のかげ一つ宿さない、ばさけた、乾いた大地の、白木の小さなやしろと手もちなくむかい合った狛犬とだけ残して、空に、灰いろにただひろがっているのをみるだろう。