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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

二十三

)といいかけてつッと立ち、つかつかと足早に土間へ下りた、余り身のこなしが活溌であったので、その拍子に黒髪が先を巻いたまま項へ崩れた。

鬢をおさえて戸につかまって、戸外を透したが、独言をした。

(おやおやさっきの騒ぎで櫛を落したそうな。)

いかさま馬の腹を潜った時じゃ。」

二十三

この折から下の廊下に跫音がして、静に大跨に歩行いたのが、寂としているからよく。

やがて小用を達した様子、雨戸をばたりと開けるのが聞えた、手水鉢へ柄杓の響。

「おお、積った、積った。」と呟いたのは、旅籠屋の亭主の声である。

「ほほう、この若狭の商人はどこかへ泊ったと見える、何か愉快い夢でも見ているかな。」

「どうぞその後を、それから。」と聞く身には他事をいううちが牴牾しく、膠もなく続きを促した。

「さて、夜も更けました、」といって旅僧はまた語出した。

「たいてい推量もなさるであろうが、いかに草臥れておっても申上げたような深山の孤家で、眠られるものではない、それに少し気になって、はじめの内私を寝かさなかった事もあるし、目は冴えて、まじまじしていたが、さすがに、疲が酷いから、心は少しぼんやりして来た、何しろ夜の白むのが待遠でならぬ。