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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「旦那……あすこに誰かいるでしょう。もう少し、こっちへ寄ってごらんなせえ。ほれ、縁側へ行燈を出して二人の男が何かしているじゃありませんか」

「いかにも、庭先へ盥を出して、湯浴みを終えたところらしいが、それが何と致したのじゃ」

「一人はたしかに怪我人です。ごらんなせえ、側の男が、腫れものにさわるように、体を拭いてやっています。ここからでは顔までしかと見えませんが、今向うの垣根越しにヒョイと見ると、どうでしょう! ありゃ待乳の多市ですぜ」

「えっ、あれがか」

「天王寺や土筆屋などで、再三見覚えている顔ですから、決して間違いはありません」

「さすれば、側にいて世話をやいているほうの者は、彼の親分銀五郎とやら申す男ではないか」一八郎は、万吉から、疾く今度のいきさつを聞いてもいたし、また唐草と待乳の二人が自分たちと同じ目的か否かは知らぬが、阿波の密境へ入りこもうとする者であることも知っていたので、偶然、これはよい者の居所を尋ね当てたと心密かに欣ぶのだった。

「なるほどそういえば、一方は唐草銀五郎かも知れません。いつかの晩、京橋口で孫兵衛に斬り捨てられたとばかりに思っていた多市が、こんな所を隠れ家にして、療治をしていようとは夢にも気がつかなかった……」