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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
神主へ断ってきた言葉のように、妨げのない額堂の席を、夜涼の山嵐をほしいままにして、連歌の競詠を試みているのかと思うと、闇の中に、眼ばかり光らしている武士たちの顔には、みじんもそんな風流気は見えず、一人として筆をかみ句を案じているような者はない。
片隅でムクムク動いている者があれば、それは用意の黒布を出して、顔の覆面や足拵らえにかかっている者で、中には腰の皎刀を抜き払って、刃こぼれをあらためている者がある。
すると、北関の崖の方から、またここへ攀じ登ってきた七、八人の覆面がある。中に先立った一人の武士、額堂の下から、
「天堂氏、天堂氏」と呼びたてた。
「おう……」と、すぐ欄干から身をのばしたのは、自来也鞘の武士……すなわち蜂須賀の原士天堂一角であった。
「や、森氏か――」とうなずいて、一角は、額堂の上からそこへ降りてきた。
裏崖から、ここへ登ってきた中には、お船手の森啓之助と九鬼弥助がまじっていた。いずれも、同じように覆面しているので、夜目には互いの間にも、それが誰かさえ分らない程である。
「時雨堂のほうは? ……」
「別に変ったこともないようです」
「銀五郎やその他の奴、よもや、こっちの手廻しを、気づいてはおりますまいな」