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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

お綱さん、せめて、お前、抱いてあげなさいよ」

「私も一言お詫をします――お父っさん! お綱はほんとに親不孝でございました」

泣きすがると、虎五郎はホッと太い息を吐いた。そして、ゴクリと水が咽喉へ落ちると、

「お、お綱ッ」

こう一言、洩らした。

「すまなかった……。もう、く、口ではいえない、後で、あ、あの押入れの奥を見てくれ、刀と……」

それだけであった。

それが、紋日の虎の死であった。

墓場のような無言のうちに、みんなのすすり泣きが起こった。万吉も土間の隅で、ジッと首をうなだれている。

ところへ、勝手口から、あわただしく入ってきた男が、お綱に大変を告げてきた。その者が、口忙しくいうことには、何だか今、手先臭い男が、此家を覗いているなと思うと、一散に、番屋の方へ駈けだして行きました。

目前には、今息をひきとったばかりの養父の空骸があり、側には、泣きじゃくるお三輪と乙吉のいじらしい姿がある。

そして、お綱の身辺には、もうひそかにその筋の目が光っている。という知らせだ。

さすがのお綱も、当惑して、この成行きがどう神の手に裁かれるのか。これも、自分のなせる罪業のむくいかとしみじみと思う。