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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「あの、お武家様……」見れば川長の女中である。みんな立ち上がっている血相に、ややおどおどとして遠くから、

「先ほど、お鳥目を投げておやり遊ばしたあの虚無僧が、ご挨拶を申したいから、是非二階のお武家衆の席へ通してくれと申しますが……」

「何じゃ、さっきの虚無僧があいたいと?」

「ハイ、物乞いのように銭を投げつけられては普化宗の一分が立たぬと、少し怒っているような口ぶりでございます」

「生意気な!」弥助は叩きつけるような語気で、

「そやつの挨拶とは、何かいいがかりをつけて酒代をねだるつもりであろう。押しの太い尺八乞食め、見せしめに素ッ首をぶち落してくれるから召し連れて来い」ひどく癇にさわったらしく、ぐわんとどなりつけるのを森啓之助がなだめて、

「まあ九鬼氏、多寡の知れた虚無僧風情じゃ……」一方へ大事な出先と目顔に知らせて、女中の方へもこういった。

「これ、さような者の言い草をいちいち受けついでまいるから悪い。早く塩でも撒いて追っ払ってしまえ」

すると、一間を越した隣り部屋、今までシンとしていた所から、ポンポンと軽く手を打つ客があった。

「はアい」いい機にしてそこへ立つと、中には女の一人客、五種六種の料理を取ってキチンと静かに寛いでいる。