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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

金色の錯覚

ギョッとして、顔を上げると、アアよかった。そこに立っていたのは、いとしの黄金仮面! 恋人は無事に帰って来たのだ。と彼女は信じた。

黄金仮面は無言のまま、不二子の手を取って、部屋の外へ、それから暗闇の階段を地上へと昇って行った。不二子はそれが何を意味するかを知らなかった。ただ、恋人の意志のままに、夢心地で、そのあとに従って行くばかりだ。

金色の錯覚

黄金仮面は、無言のままなぜか惶しく不二子さんの手を引いて、地上へと階段を昇り、走る様に廊下を通って、玄関から、門外へと出た。

門の側に、ヘッドライトを消した一台の自動車が待っていた。

「いつの間に、車の用意などして置いたのかしら」

と疑う隙もなく、黄金仮面の力強い腕が、不二子さんを車内へと押し込め、運転手に何か囁くと、彼は飛込む様に、令嬢の隣へ腰をおろした。

パッと光るヘッドライト。広い原っぱの遙か向うの枯木の枝が、闇にボンヤリ浮き出した。と同時に、デコボコ道を、車は矢の様に走り出す。アア助かった。もう大丈夫だ。

「私、怖かったわ」

不二子さんは、甘える様に云って、車の動揺につれて、黄金仮面の膝に凭れかかったが、凭れたかと思うと、びっくりした様に、ヒョイと起き直った。