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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

覗くに極っている。とおびえる心が、そのまま形となって現われる様に、そこから、その黄金仮面が、三日月型の口で笑いながら、本当に、ヒョイと現われたではないか。

姫はその刹那、半ば意識を失って、その黄金仮面の怪物に向って、まるで仲よしのお友達ででもある様に、ニッコリと笑いかけた。極度の恐怖が――泣くことも叫ぶことも出来ぬ程の恐れが、遂に人を笑わせたのであろうか。

怪物は、姫の不思議な笑顔に誘われた様に、窓をのり越えて、ツカツカと湯殿の中へ這入って来た。顔は黄金仮面、後頭部は黒布にすっかり包まれている。身には、例のダブダブの金色外套だ。

姫は生命の危険を感じた。「早く早く、逃げなければならぬ」消えて行く意識を取戻そうと、死にもの狂いの戦いだ。

やっとの思いで、浴槽を出た彼女は、乙女の羞恥も忘れ、むき出しの赤はだかで、よろよろとドアに走った。

だが、黄金仮面は燕の素早さだ。姫が半ばも走らぬ内に、彼は已にドアの前に立ちはだかっていた。見ると怪物の右手には、黄金マントの下に隠し持っていた、鋭い短剣がギラギラと光っている。

素っぱだかの、花はずかしい姫君と、全身金色に輝く怪物の、いとも奇怪なる睨み合い。