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こくびゃくストーリー

黒白ストーリー

杉山 萠円

「黒白」1925(大正14)年5月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,356 字 · 42 页

青空文庫

――8――

――9――

――10――

――8――

或る日武丸の眼を診察した養策は「もういくらか見えはせぬか」と問うた。

武丸は淋しく笑って頭を振った。

養策は妙な顔をした。

武丸はそのまま丸山家の仏間に案内された。

仏壇にお茶を上げに来た音絵はあやまって茶碗を武丸の前に取り落した。

武丸は思わず身を退いて転がりかけた茶碗を起したがハッと気が付いて微笑しつつ音絵の顔を見上げた。

武丸の活き活きした眼と眼を見交した音絵は驚きふるえつつ次の間に退いた。

あとを見送った武丸は真面目な表情になった。仏前に茶碗を直し、畳の濡れたところをハンケチで拭いて尺八を取り出し、秘曲中の秘曲「雪」を吹き初めた。その調子はいつもとまるで違って美しく清らかであった。

音絵は襖の間からそっとのぞいて見た。

尺八に金文字で「玉山」と書いてあった。

音絵はハッと袖を顔に当てた。声を忍んで泣いた。泣きながら耳を傾けた。

――9――

武丸はこの時限り姿を見せなくなった。

音絵は鬱々と暮した。

養策は腕を組んで考えた。

――10――

歌寿は喘息が落ち付いたので、見舞いに来た音絵に秘曲の「雪」を教え初めたが間もなく中止した。「だれにこの秘曲をお習いになりましたか」