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こくびゃくストーリー

黒白ストーリー

杉山 萠円

「黒白」1925(大正14)年5月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,356 字 · 42 页

青空文庫

――11――

智恵子は意味あり気な眼付きをして云った。

もう一枚の方は……

どうぞ奥様に……

徳市はハッと顔を撫でて苦笑した。

ヤ……

私は……

まだ独身で……

智恵子もハッと半巾で口を蔽いながらあやまった。

マ……

どうも失礼を……

徳市は高らかに笑った。

智恵子も極まり悪げに笑った。

時子が傍から取りなした。

ではお友達にでも……

徳市は急に真面目になって暇を告げた。

智恵子と時子は名残を惜しんだ。

徳市は二枚の切符を懐中にして逃げるように星野家を出た。

――11――

徳市は星野家を出ると又行く先がなくなった。懐中には唯帝劇の切符が二枚ある切りであった。スッカリ悄気てとある横町を通りかかった。

労働者の風をした男が徳市に近付いて肩に手をかけた。

徳市は立ち止まってふり返ると、変装した浪越憲作を認めてハッとよろめいた。

憲作はニヤリとして口に指を当てた。眼くばせをして先に立った。

徳市はうなだれてついて行った。

二人はやがて丸の内の山勘横町へ来た。事務所様の扉を押して憲作はふり返った。

徳市は躊躇しいしいあとから這入って行った。

憲作は暗い階段をいくつも上った。