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こくびゃくストーリー

黒白ストーリー

杉山 萠円

「黒白」1925(大正14)年5月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,356 字 · 42 页

青空文庫

――10――

キョロキョロとして早足に歩き出した。

徳市はそれからとある洋品店に這入って大きなブラシを一つ買って釣銭を貰った。表へ出てホッと一息した。そのブラシを持って手近い横路地へ這入って帽子、上衣、ズボン、靴まで綺麗に払った。ブラシを尻のポケットに仕舞って揚々と往来へ出た。

次に向うの活版屋に這入って名刺を注文して前金を払った。その次には安洋食店に這入って酒を飲みながら鱈腹詰め込んだ。その払い残り五円で花束を買って、往来の靴繕いを見付けて靴を磨かせた。最後に活版屋へ行って名刺を受取った。

――10――

徳市は星野家を訪うて名刺を出した。

ハイカラな女中が出て来て奥へ取り次いだがやがて引返して来て応接間に案内した。

徳市は応接間に這入るとポケットから葉巻を出して吹かし初めた。

星野智恵子はさも嬉し気に這入って来た。貴婦人も這入って来て挨拶をした。

私は智恵子の母時子と申します……

この間は何とも……

まことに……

徳市は苦笑しながら礼を返した。謹んで花束を智恵子に捧げた。

智恵子の眼は感謝に輝やいた。

母子は茶や菓子を出して徳市をもてなした上、近いうちに智恵子が出演する歌劇の切符を二枚徳市に与えた。