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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
半三郎はあいまいに首を振った、「あんまり好きじゃあないんだ」
返辞はそれだけであった。
こうして同じような日が経ってゆき、その年が暮れた。正月に安部右京から使いがあり、友達が集まるから来るように、という口上だったが、半三郎は使いの者にも会わず、あだこに断わらせた。それは五日のことであったが、午すぎから雪になり半三郎は十帖の座敷の障子をあけて、雪を眺めながら、あだこの酌で珍しくゆっくり飲んだ。
「どうしてお友達のところへいらっしゃらないんですか」あだこが彼の顔色をみて云った、「せっかくお迎えがあったのですし、お独りでめしあがってもうまくはございませんでしょう」
半三郎は庭を見たままで云った、「あれは十兵衛のさしがねだ、――曽我十兵衛、あだこは知っているだろう」
「わたくしがですか」
「隠すことはない、土堤三番町の曽我十兵衛だ、知っているんだろう」
「そういう方は存じません」とあだこが云った、声は低く、少しふるえているようであった、「でも、知っていることもあります」
「なにを知っている」
「金森さまのことです」
「十兵衛に聞いたんだ」
「そういう方は存じません」とあだこは云った、その声は湿って、もっとふるえを帯びてきた、「わたくし伊賀屋の御主人に聞いたんです、お名まえは存じませんが、金森のお嬢さまは五年の余も許婚でいたのに