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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

、旦那さまを措いてよその人と逃げてしまった、そのために旦那さまがこんなになってしまったのですって」

「その話はやめろ」

「いちどだけ云わせて下さい」とあだこは云った、「あたしくやしいんです、そのふしだらなお嬢さんは好きな人と夫婦になって、いまでも立派にやっていらっしゃるというのに、旦那さまのほうはこんなになっていらっしゃる、このままでは一生がめちゃめちゃになってしまいます、旦那さまをこんなめにあわせたのに、そのお嬢さまのほうは仕合せでいる、などということがあっていいものでしょうか」

半三郎はまだ庭を見たままで云った、「あだこはその娘が、不幸であればいいと思うのか」

「あたしただくやしいだけです」

「みすずが仕合せでいるのはいいことなんだ」と彼は穏やかな声で云った、「おれとの婚約は親同志できめたことだ、みすずにはあとで好きな相手ができ、尋常な手段では望みが遂げられないとみて、その相手と出奔した、これはふしだらな気持だけでできることではない、金森は八百石の旗本だ、家の名聞、親の怒り、世間の評、これらをすべて賭けなければならない、みすずはその全部を賭けたのだ、これは勇気のいることなんだ」