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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

感じていた、そのうちにふと、いま自分に触れていった風には、二度と触れることはできない、ということを考えた、どんな方法をもちいても、いちど自分を吹き去っていった風にはもう二度と触れることはできない――そう思ったとき、おれは胸を押しつぶされるような息苦しさ、自分だけが深い井戸の底にいるような、まっ暗な怖ろしさに圧倒された」

半三郎は静かに一つ飲んだ、「おれはみすずが好きだった、逢うおりは年に幾たびと限られたようなものだし、二人だけで話したことなどは数えるほどしかなかった、それでもおれはみすずが好きで、いつか妻に迎えることができると信じ、心からそれをたのしみにしていた」

無感動な口ぶりで話し続けながら、半三郎は頭の中で、みすずと自分のあいだにあったことを思い返していた。それはみすずの部屋で、ただいちどだけあったことだ。みすずは着ている物をすっかりぬぎ、素裸になって、自分のからだを彼にみせた。彼はばかのように茫然としていた。彼女が着物をぬぎはじめたときから、なにをするのか見当もつかず、彼女がすっかり裸になったときも、どういう意味なのかわからずに茫然としていた。