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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
五たびともいやなめにあってとびだしたこと。そのため請け人宿の世話になれないことなどを語り、こんどは武家であるし、貧乏で小者も下男もいないが、旦那は悪い人ではないらしいし、この屋敷なら勤まると思う。もうほかにゆくところもなし、自分が働いても必ず代銀は払うから、どうか米を貸してもらいたい、とあだこは云った。津軽の訛りが、彼女の誠実さをいっそう際立てるようで、市兵衛はこころよく承知したのだと云った。
あだこは伊賀屋でも、魚銀でも同じようにした。店のまわりを片づけ、空き樽の中で薦を剥ぐものは剥ぎ、縄や薦はそれぞれに集め、物置の中をきれいにし、空き樽を積み直し、塩の叺をふるったり、徳利を洗ったりした。魚銀でもそのとおりだったが、捨てるつもりでどけておいた魚の尾頭や臓物などの、臭くて汚ないような物の中から、あら煮として売れるような部分をよりわけて、皿に盛ってみせたそうで、主人の銀太はおどろいたということである。
あだこは決して誠実を売ったのではない、すべては自分が小林の家にいたいためであり、そのために労をいとわなかっただけであった。彼女は小林の家にいついてからも、三軒の店へ代る代るまわって、初めの日と同じように掃除をし、片づけ物をした。