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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
動作がきびきびしているし、人の気づかないところに気がつき、しかも手を抜くということがなかった。――半三郎はまったく知らなかったが、――あだこは十二月いっぱい、休みなしにそれを続けたということだ。そうして正月になり、七草が過ぎてから、お針の稽古を始めるから掃除にまわれなくなった、と断わりに来た。市兵衛たちはまえからそのつもりで、もう掃除などに来なくともいいと、たびたび云っていたのだそうで、それはそのほうがよかろうと承知した。
市兵衛はそこで話の調子を変えたのだ。あだこはお針の稽古にゆくのではなく、市ヶ谷田町の大きな仕立屋へ、針子としてかよっているのだという。針子として手間賃を稼ぎ、家でも賃縫いをしている。そして稼いだものを米屋、魚銀、伊賀屋へ少しずつではあるが返銀として入れているというのだ。
――旦那はその賃縫いを見ている、毎晩十二時ころまで縫い物をしているのを、旦那は自分の眼で見ている筈だ、と市兵衛は云った。針子のほうも不審だと思うならいってみるがいい、田町の火消し屋敷のすぐ脇で、大きな仕立屋だからすぐにわかる、いって訊いてみるがいい、と市兵衛は云ったのだ。