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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
若尾はまともに修理を見た、「あなたはどうなさいましたの、火傷ですか」
「なに、たいしたことはないんですよ、それより」と彼はすばやく左右へ眼をやった、「ぜひ貴女に話したいことがあるんです。一刻も早いほうがいいんですが、あの築山の裏まで来てくれませんか」
「さあ、――夜にでもならないと暇がございませんけれど」
「結構です、あの築山のうしろの林の中で待ってますから」
「でも、――御用はなんでしょうか」
「そのとき話します」修理はもう歩きだしていた、「待っていますからね、今夜でなければあすの晩、八時ごろから待っていますよ」
そして彼は侍長屋のほうへ去っていった。
若尾はちょっと迷ったが、すべてものごとは、はっきりさせるに越したことはない、こう思ってその夜でかけていった。築山というのは、堀から水を引いた泉池の奥にあり、そのうしろは隣りの加納家へ続く林になっている。隣り屋敷も庭境には樹立があるので、そこは昼でも暗いほど樹が繁っていた。――少し時刻には早いと思ったが、修理はもう来て待っていた。築山をまわってゆくと、まっ暗な林の入口のところに、彼の巻き木綿が白くぼんやりと浮いて見え、それが、若尾が近づいてゆくと、林の中へと静かに入っていった。