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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
「あたし、また舞台へ出るわ」若尾は元気に云った、「薙刀の腕が違ったから、新しい水車の手を編みだすの、あしかけ五年修業して来たんですもの、あっといわせるような手を考えてみせるわ」
だが五日めに和次郎が迎えに来た。
あとでわかったのだが、彼は若尾の出奔した日に江戸へ着いたのであった。災害の急報に続いて出府の命令が届き、馬を乗り継いで来た。命令はとつぜんのものではなく、一月中旬に非公式の予告があり、三月じゅうには出府の命があるだろうといわれていた。したがってその準備をするかたわら、谷口修理にその旨を知らせておいた。(その知らせのなかで、和次郎は近く自分が若尾と結婚する予定だということを書いた)それで修理は、和次郎の出府するまえに若尾をくどきおとそうと決心したのであろう。江戸邸へ着いた和次郎に、若尾が出奔したということを告げたのは修理であった。
――自分のような者が和次郎の妻になっては、和次郎の将来のためにならない。
そう云って出奔した、というふうに告げたそうである。和次郎は人を頼んで岩本一座を捜させた、そのほかに身を寄せるところはない筈である。どこかで一座が興行していはしまいか、こう思ったのであった。