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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
か」
久之助は低く頭を垂れた、全身の毛穴から一時に冷汗がふき出る感じだった、たとえば蛙がくるっと皮を剥かれたように、皮膚をひき剥がれて裸肉を曝されたような気持でさえあった。
「いま庭さきで、すぐ相手をしようとそこもとは云った、身のまわりをきれいに始末して、もう死んでも悔いはないという気持であろう、……それではじめて、『いつなんどきでも身命を捧げる』ということができるのだ。さむらいの鍛錬は家常茶飯のうちにある、拭き掃除、箸の上げ下ろし、火桶への炭のつぎ方、寝ざま起きよう、日常瑣末な事のなかに性根の鍛錬があるのだ、そしてその瑣末な事にゆだんがなければ、改めて覚悟せずとも奉公の大事をあやまることはないのだ」
一語一語を鋭い鑿で心臓へ彫りつけられるような感じだった。久之助は頭を垂れ、両手でぎゅっと汗を握っていた。
……昼にはかねて聞いていた稗飯と菜汁の食事が出た、菜汁の中には大きな泥鰌がはいっていて、おそらくそれが「馳走」というのであろう、図書はそれをうまそうに頭からばりばりと喰べた。
久之助には稗飯というのがそもそも難物に思えたし、拇指ほどもある泥鰌のまる噛りはさらに閉口だった。