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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

二

さむらいとしては殿に苦い顔をおさせ申すように心がけなくてはならぬぞ」

久之助はそうするようにつとめた、お気にいるようになどと執りまわったことはない、それはわかっているが、それだけに却って親としては不安心だったのである。

忠辰が駿河守に任官した年、権之助はわが子を、御側近から離す決心をした、そして老臣を通じて忠辰に上申し、久之助を江戸から国詰にと移して貰った、そのときかれは忠辰と同年の十五歳であった。

二

江戸を去るときいとま乞いに伺候すると、忠辰はきげんの悪い顔をしていた。

賢い性質だからなにも口にはださなかったが、不本意だという心持がよく眼にあらわれていた。

「なにか予においてゆくものはないか」

忠辰はそう云う表現で僅かに惜別の意を示した。

「お上は殊のほか蜜柑をお好みなされます」

久之助はそう答えた。

「……ほかにも二三、特に御好物な品がおありだと存じますが、向後はそういうものをお嫌いあそばすよう、これだけをお名残りに言上いたします」

「好きなものを嫌いになれと云うのか」

「先日ふと見ました書にこういう言葉がございました、賢を尚ばざれば民をして争わざらしむ、得難きの貨を貴ばざれば民をして盗を為さざらしむ、欲すべきを見せざれば心をして乱れざらしむ。