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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
十一
「殿にはお詫びを申上げ、おゆるしを得て下城いたしました」
「おれはそんなことを云うのではない」
平手打をくれるように権之助が云った、
「……仕合のようすを聞きたかったので、御老職からの帰りに梶岡家へたち寄ってみたのだ、梶岡では淵田某を中心に小酒宴をしており、おれもその席に坐ったが、あの武芸者め、巧みに歯へ衣を着せて当藩の武道を貶るのだ、師範たるおまえが負けた以上、どう貶られようと一言もない、だがそのなかにこういう言葉があった、……長岡の殿さまは文にも武にも精しいと聞いていたが、なかなか世評どおりの人物にはゆき当らないものだ、名君などと評判の高い人でも、会ってみると暗愚であるほうが多い」
十一
「これをどう聞くか」
権之助は拳をぐいと前へつき出した。
「……巧みに衣は着せているが、これは明らかに御しゅくんの悪口だ、暗愚とは殿をさして申したのだ、そしてそれを云わせた因は仕合に負けたおまえにある」
「それは違います、いや本当に違うのです、かれは御当家に召抱えられるつもりでいた、しかしそれがお沙汰やみになったので、不満のあまりそんな雑言を口にしたのでしょう」
「それではなおさらのことではないか、おまえが仕合に勝っていれば不満の出ようもない、責任はみなおまえの負けたことにあるんだ」