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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
四
「いま田の草を取って来たところでな」そう云って笑い、「すぐ支度をして来るから」
と家の中へ去ったが、やや暫くすると着替えて出て来た。
「すっかり片付けて来られたか」
「はい残りなく始末をしてまいりました」
「そうか、ではこちらへ通るがよい」
「すぐお相手をしたいと存じますが」
「なにもう立合う必要はない」
図書はむぞうさにそう云った、
「……ゆうべ話し残したこともある、今日はゆっくりして飯でも喰べてゆくがよい、馳走をするぞ」
久之助は拍子ぬけのした感じで、図書のあとから部屋へ通り、例の固い円蓙の上に坐った。庭はずれの樹立で油蝉がやかましく鳴きたてていた。
四
「一身一命を捧げると口では易く云う」
図書はちからのある声で云った、
「……御しゅくんのため、藩国のためにはいつなんどきでも死ぬ覚悟だ、口では誰もそう云うが、家常茶飯、事実のうえでその覚悟を活かすことはむずかしい。昨夜そこもとは身命を上に捧げたといった、その言葉に嘘はないだろう、覚悟もたしかなものに違いない。だが実際にはその覚悟を活かしていなかった、……他人に指摘されて、急いで始末をしなければならぬような物を、身のまわりに溜めて置いた、死後に発見されては身の恥になるような物をさえ始末もせず、ただ覚悟だけいつ死んでもよいと決めたところでから念仏にすぎない、そうではない