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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

六

六

わが子の為人に就いては、権之助は誰よりも熟知しているつもりだった、それで朝晩二回ずつ、道場へ出てつぶさに稽古ぶりを見た。

……だがどうしても納得がいかないのである。久之助は門人と木剣を持って相対する、両方ともむろん素面素籠手である、相対して呼吸が合うと門人が打を入れる、それでおしまいなのだ、「気合が充実していない」とか、「眼が違う」とか、「神が遊んでいる」とか、簡単な指摘をして次ぎの者に代らせる、幾たび回っても一度だけ打を入れるばかりで、要するにかなりじれったい稽古であった。

「武士が刀を抜く場合は二つしかない」

久之助はよくそう云った。

「……其の一は御奉公のため、其の二は自分の武道の立ちがたい恥辱をうけたときだ、そしてどちらの場合にも抜くからには絶対である、必ず相手を斃さなくてはならぬし、おのれの死も免れない、要するに稽古の眼目はそこにあるのだ、一生に一度、抜いたら必ず敵を討止める剣、……これを眼目だと思って貰いたい」

そうしてひたすら一刀の打だけを稽古させるのであった。そしてそれよりも厳しいのは日課の雑事である。火桶の炭のつぎ方、拭き掃除、薪割り、畑作り、さらに寝ざまから夜具のあげおろしまで、なぜそんなに厳重にするのか不審なほどびしびしやられた。