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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

忠辰が小野次郎右衛門についてまなんだので、久之助には柳生を選んだのである。これを忠辰に推挙したのは原田義平太であった。

……柳生家はそのとき対馬守宗在の代だった。宗在は飛騨守宗冬の二男で、長男宗春が世を早めたため家督を継いだが、かれ自身もあまり健康には恵まれなかったようだ。しかし父祖同様、将軍家宣に刀法を教授するほどだから、その道に達していたことは記すまでもないと思う。

……忠辰から特に頼まれてもいたし、自分の眼にもなかなか非凡な人がらにみえるので、宗在はそれとなく久之助のようすに注意を怠らなかったけれども、日が経つにつれて、非凡とみた自分の眼が疑わしくなってきた。入門して一年というものは、自ら求めて拭き掃除をしたり、厨へおりて薪を割り、釜の下を焚き、水を汲むなどということばかりやった、二年めにはときおり道場へ出るようになったが、片隅に坐って他の人々の稽古を見るばかりで、自分ではいっかな木剣を執ろうとしない。

「……こちらへ出て稽古をしないか」という者があっても、

「……いやまだ迚も」

と答えるだけで立とうとしなかった、いちどならず宗在が促しても、やはりおなじように辞退するばかりだった。