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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

君国を護持するものはさむらいだ、いつなんどきでも身命を捧げるさむらいのたましいだ」

「…………」

「刀法には免許ということがある」ちょっと息を継いでから、さらに久之助は云った。

「……学問にも卒業というものがある、しかし武士の道には免許も卒業もない、御奉公はじめはあるが終りはないのだ。日々時々、身命を捧げて生きるということは、しかし口で云うほど容易なことではない、容易ならぬことを終生ゆるぎなく持続する根本はなにか、それは生き方だ、その日その日、時々刻々の生き方にある。垢の付かぬ着物が大事ではない、炭のつぎ方が大事ではない、拭き掃除も、所持品の整理も、その一つ一つは決して大事ではない、けれどもそれらを総合したところにその人間の『生き方』が顕われるのだ、とるに足らぬとみえる日常瑣末なことが、実はもっとも大切なのだ。……自分がそこもとたちに伝える『道』はここにある。言葉でも哲学でもない、瑣末なことの端々に、大事を掴んでゆだんしない生き方、これがそこもとたちに伝える『道』なのだ」

低く垂れた賢七の顔からぽとぽとと涙がこぼれ落ち、肩が顫えだすのといっしょに嗚咽のこえが聞えた。