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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

しかしそれは眼叩きをするほどの刹那のことで、主税助は打を入れたかたちのまま烈しくのめってゆき、久之助は右手に刀を持ってふり返っていた。

主税助はどっと芒の中へうち倒れた。

「……見たか」

久之助はしずかに呼びかけた。

「そこもとたちに教えている一刀、一生にいちど抜く刀は、必ず敵を斬って取る、必ず斬って取る、これがその一刀だ、わかったか横堀」

刀をぬぐいながら、久之助がしずかに頭をめぐらせた。

後方二十歩あまりの夏草の中に、片膝をついてこっちを見ている者があった。……横堀賢七である。

ひそかに跟けて来て、これまでの始終を見ていたかれは、とつぜん呼びかけられて声も出なかった。

「この者を向うの小屋へ運んでやれ」

久之助は紙入をとりだして賢七に与えた。

「……これを渡し守にやって早く医者に手当をさせるがいい、他言はならぬぞ」

そして月光のなかを、しずかに城下のほうへ去っていった。